のりてしこと

我に似し友の二人《ふたり》よ
一人は死に
一人は牢《らう》を出《い》でて今|病《や》む

あまりある才を抱《いだ》きて
妻のため
おもひわづらふ友をかなしむ

打明けて語りて
何か損《そん》をせしごとく思ひて
友とわかれぬ

どんよりと
くもれる空を見てゐしに
人を殺したくなりにけるかな

人並《ひとなみ》の才《さい》に過ぎざる
わが友の
深き不平もあはれなるかな

誰《たれ》が見てもとりどころなき男来て
威張《ゐば》りて帰りぬ
かなしくもあるか

はたらけど
はたらけど猶《なほ》わが生活《くらし》楽にならざり
ぢっと手を見る

何もかも行末《ゆくすゑ》の事みゆるごとき
このかなしみは
拭《ぬぐ》ひあへずも

とある日に
酒をのみたくてならぬごとく
今日《けふ》われ切《せち》に金《かね》を欲《ほ》りせり

水晶《すゐしやう》の玉をよろこびもてあそぶ
わがこの心
何《なに》の心ぞ

事もなく
且《か》つこころよく肥《こ》えてゆく
わがこのごろの物足らぬかな

大いなる水晶の玉を
ひとつ欲《ほ》し
それにむかひて物を思はむ

うぬ惚《ぼ》るる友に
合槌《あひづち》うちてゐぬ
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