ぬまねをする
その顔その顔

こそこその話がやがて高くなり
ピストル鳴りて
人生終る

時ありて
子供のやうにたはむれす
恋ある人のなさぬ業《わざ》かな

とかくして家を出《い》づれば
日光のあたたかさあり
息ふかく吸ふ

つかれたる牛のよだれは
たらたらと
千万年も尽きざるごとし

路傍《みちばた》の切石《きりいし》の上に
腕|拱《く》みて
空を見上ぐる男ありたり

何やらむ
穏《おだや》かならぬ目付《めつき》して
鶴嘴《つるはし》を打つ群を見てゐる

心より今日《けふ》は逃げ去れり
病《やまひ》ある獣《けもの》のごとき
不平逃げ去れり

おほどかの心来れり
あるくにも
腹に力のたまるがごとし

ただひとり泣かまほしさに
来て寝たる
宿屋《やどや》の夜具《やぐ》のこころよさかな

友よさは
乞食《こじき》の卑《いや》しさ厭《いと》ふなかれ
餓《う》ゑたる時は我も爾《しか》りき

新しきインクのにほひ
栓《せん》抜《ぬ》けば
餓ゑたる腹に沁《し》むがかなしも

かなしきは
喉《のど》のかわきをこらへつつ
夜寒《よざむ》の夜具にちぢこまる時

一度でも我に頭を下げさせし
人みな死ねと

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