施与《ほどこし》をするごとき心に
ある朝のかなしき夢のさめぎはに
鼻に入《い》り来《き》し
味噌《みそ》を煮《に》る香《か》よ
こつこつと空地《あきち》に石をきざむ音
耳につき来《き》ぬ
家《いへ》に入《い》るまで
何がなしに
頭《あたま》のなかに崖《がけ》ありて
日毎《ひごと》に土のくづるるごとし
遠方《ゑんぱう》に電話の鈴《りん》の鳴るごとく
今日《けふ》も耳鳴る
かなしき日かな
垢《あか》じみし袷《あはせ》の襟《えり》よ
かなしくも
ふるさとの胡桃《くるみ》焼《や》くるにほひす
死にたくてならぬ時あり
はばかりに人目を避《さ》けて
怖《こは》き顔する
一隊の兵を見送りて
かなしかり
何《なに》ぞ彼等のうれひ無《な》げなる
邦人《くにびと》の顔たへがたく卑《いや》しげに
目にうつる日なり
家にこもらむ
この次の休日《やすみ》に一日寝てみむと
思ひすごしぬ
三年《みとせ》このかた
或る時のわれのこころを
焼きたての
麺麭《ぱん》に似たりと思ひけるかな
たんたらたらたんたらたらと
雨滴《あまだれ》が
痛むあたまにひびくかなしさ
ある日のこと
室《へや》の障子《
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