《ゆゑ》やらむ
なみだ流るる

それもよしこれもよしとてある人の
その気がるさを
欲《ほ》しくなりたり

死ぬことを
持薬《ぢやく》をのむがごとくにも我はおもへり
心いためば

路傍《みちばた》に犬ながながと※[#「呎」の「尺」に代えて「去」、第3水準1−14−91]呻《あくび》しぬ
われも真似《まね》しぬ
うらやましさに

真剣になりて竹もて犬を撃《う》つ
小児《せうに》の顔を
よしと思へり

ダイナモの
重き唸《うな》りのここちよさよ
あはれこのごとく物を言はまし

剽軽《へうきん》の性《さが》なりし友の死顔の
青き疲れが
いまも目にあり

気の変る人に仕《つか》へて
つくづくと
わが世がいやになりにけるかな

龍《りよう》のごとくむなしき空に躍《をど》り出《い》でて
消えゆく煙
見れば飽《あ》かなく

こころよき疲れなるかな
息もつかず
仕事をしたる後《のち》のこの疲れ

空寝入《そらねいり》生※[#「呎」の「尺」に代えて「去」、第3水準1−14−91]呻《なまあくび》など
なぜするや
思ふこと人にさとらせぬため

箸《はし》止《と》めてふっと思ひぬ
やうやくに
世のならはしに慣
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