、第3水準1−14−91]呻《あくび》してまし
思ふことなしに

腕《うで》拱《く》みて
このごろ思ふ
大《おほ》いなる敵《てき》目の前に躍《をど》り出《い》でよと

手が白く
且《か》つ大《だい》なりき
非凡《ひぼん》なる人といはるる男に会ひしに

こころよく
人を讃《ほ》めてみたくなりにけり
利己《りこ》の心に倦《う》めるさびしさ

雨降れば
わが家《いへ》の人|誰《たれ》も誰も沈める顔す
雨|霽《は》れよかし

高きより飛びおりるごとき心もて
この一生を
終るすべなきか

この日頃
ひそかに胸にやどりたる悔《くい》あり
われを笑はしめざり

へつらひを聞けば
腹立《はらだ》つわがこころ
あまりに我を知るがかなしき

知らぬ家《いへ》たたき起して
遁《に》げ来《く》るがおもしろかりし
昔の恋しさ

非凡《ひぼん》なる人のごとくにふるまへる
後《のち》のさびしさは
何《なに》にかたぐへむ

大《おほ》いなる彼の身体《からだ》が
憎《にく》かりき
その前にゆきて物を言ふ時

実務には役に立たざるうた人《びと》と
我を見る人に
金借りにけり

遠くより笛の音《ね》きこゆ
うなだれてある故
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