《ばうし》をふりて
下《くだ》り来しかな

何処《どこ》やらに沢山《たくさん》の人があらそひて
鬮《くじ》引《ひ》くごとし
われも引きたし

怒《いか》る時
かならずひとつ鉢《はち》を割《わ》り
九百九十九《くひやくくじふく》割りて死なまし

いつも逢《あ》ふ電車の中の小男《こをとこ》の
稜《かど》ある眼《まなこ》
このごろ気になる

鏡屋《かがみや》の前に来て
ふと驚きぬ
見すぼらしげに歩《あゆ》むものかも

何《なに》となく汽車に乗りたく思ひしのみ
汽車を下《お》りしに
ゆくところなし

空家《あきや》に入《い》り
煙草《たばこ》のみたることありき
あはれただ一人|居《い》たきばかりに

何がなしに
さびしくなれば出《で》てあるく男となりて
三月《みつき》にもなれり

やはらかに積れる雪に
熱《ほ》てる頬《ほ》を埋《うづ》むるごとき
恋してみたし

かなしきは
飽《あ》くなき利己《りこ》の一念を
持てあましたる男にありけり

手も足も
室《へや》いっぱいに投げ出《だ》して
やがて静かに起きかへるかな

百年《ももとせ》の長き眠りの覚《さ》めしごと
※[#「呎」の「尺」に代えて「去」
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