長き廊下のゆきかへりかな

むらさきの袖《そで》垂《た》れて
空を見上げゐる支那《しな》人ありき
公園の午後

孩児《をさなご》の手ざはりのごとき
思ひあり
公園に来てひとり歩《あゆ》めば

ひさしぶりに公園に来て
友に会ひ
堅《かた》く手握り口疾《くちど》に語る

公園の木《こ》の間《ま》に
小鳥あそべるを
ながめてしばし憩《いこ》ひけるかな

晴れし日の公園に来て
あゆみつつ
わがこのごろの衰《おとろ》へを知る

思出のかのキスかとも
おどろきぬ
プラタヌの葉の散りて触《ふ》れしを

公園の隅《すみ》のベンチに
二度ばかり見かけし男
このごろ見えず

公園のかなしみよ
君の嫁《とつ》ぎてより
すでに七月《ななつき》来《き》しこともなし

公園のとある木蔭《こかげ》の捨椅子《すていす》に
思ひあまりて
身をば寄せたる

忘られぬ顔なりしかな
今日|街《まち》に
捕吏《ほり》にひかれて笑《ゑ》める男は

マチ擦《す》れば
二尺ばかりの明るさの
中をよぎれる白き蛾《が》のあり

目をとぢて
口笛かすかに吹きてみぬ
寐《ね》られぬ夜の窓にもたれて

わが友は
今日も母なき子を負ひて
かの
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