》に
手をあてて
寒き夜にする物思ひかな
水のごと
身体《からだ》をひたすかなしみに
葱《ねぎ》の香《か》などのまじれる夕《ゆふべ》
時ありて
猫のまねなどして笑ふ
三十路《みそぢ》の友のひとり住《ず》みかな
気弱《きよわ》なる斥候《せきこう》のごとく
おそれつつ
深夜の街を一人散歩す
皮膚《ひふ》がみな耳にてありき
しんとして眠れる街《まち》の
重き靴音
夜《よる》おそく停車場に入《い》り
立ち坐《すわ》り
やがて出《い》でゆきぬ帽《ばう》なき男
気がつけば
しっとりと夜霧|下《お》りて居《を》り
ながくも街をさまよへるかな
若《も》しあらば煙草《たばこ》恵《めぐ》めと
寄りて来《く》る
あとなし人《びと》と深夜に語る
曠野《あらの》より帰るごとくに
帰り来《き》ぬ
東京の夜《よ》をひとりあゆみて
銀行の窓の下なる
舗石《しきいし》の霜《しも》にこぼれし
青インクかな
ちょんちょんと
とある小藪《こやぶ》に頬白《ほほじろ》の遊ぶを眺む
雪の野《や》の路《みち》
十月の朝の空気に
あたらしく
息|吸《す》ひそめし赤坊《あかんぼ》のあり
十月の産病院の
しめりたる
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