く》みし友と
いつしかに親しくなりて
秋の暮れゆく

赤紙《あかがみ》の表紙|手擦《てず》れし
国禁《こくきん》の
書《ふみ》を行李《かうり》の底にさがす日

売ることを差し止《と》められし
本の著者に
路《みち》にて会へる秋の朝かな

今日よりは
我も酒など呷《あふ》らむと思へる日より
秋の風吹く

大海《だいかい》の
その片隅《かたすみ》につらなれる島島《しまじま》の上に
秋の風吹く

うるみたる目と
目の下の黒子《ほくろ》のみ
いつも目につく友の妻かな

いつ見ても
毛糸の玉をころがして
韈《くつした》を編《あ》む女なりしが

葡萄色《えびいろ》の
長椅子《ながいす》の上に眠りたる猫ほの白《じろ》き
秋のゆふぐれ

ほそぼそと
其処《そこ》ら此処《ここ》らに虫の鳴く
昼の野に来て読む手紙かな

夜《よる》おそく戸を繰《く》りをれば
白きもの庭を走れり
犬にやあらむ

夜の二時の窓の硝子《ガラス》を
うす紅《あか》く
染めて音なき火事の色かな

あはれなる恋かなと
ひとり呟《つぶや》きて
夜半《よは》の火桶《ひをけ》に炭《すみ》添《そ》へにけり

真白《ましろ》なるラムプの笠《かさ
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