れば時計とまれり
吸はるるごと
心はまたもさびしさに行《ゆ》く
朝朝《あさあさ》の
うがひの料《しろ》の水薬《すゐやく》の
罎《びん》がつめたき秋となりにけり
夷《なだら》かに麦の青める
丘の根の
小径《こみち》に赤き小櫛《をぐし》ひろへり
裏山の杉生《すぎふ》のなかに
斑《まだら》なる日影《ひかげ》這《は》ひ入《い》る
秋のひるすぎ
港町
とろろと鳴きて輪を描く鳶《とび》を圧《あつ》せる
潮《しほ》ぐもりかな
小春日《こはるび》の曇硝子《くもりガラス》にうつりたる
鳥影《とりかげ》を見て
すずろに思ふ
ひとならび泳げるごとき
家家《いへいへ》の高低《たかひく》の軒《のき》に
冬の日の舞ふ
京橋の滝山町《たきやまちやう》の
新聞社
灯《ひ》ともる頃のいそがしさかな
よく怒《いか》る人にてありしわが父の
日ごろ怒《いか》らず
怒れと思ふ
あさ風が電車のなかに吹き入《い》れし
柳《やなぎ》のひと葉
手にとりて見る
ゆゑもなく海が見たくて
海に来ぬ
こころ傷《いた》みてたへがたき日に
たひらなる海につかれて
そむけたる
目をかきみだす赤き帯《おび》かな
今日|逢《あ》
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