にはかに騒ぐかなしさ
わかれ来《き》て年《とし》を重ねて
年《とし》ごとに恋しくなれる
君にしあるかな
石狩《いしかり》の都《みやこ》の外の
君が家
林檎《りんご》の花の散りてやあらむ
長き文《ふみ》
三年《みとせ》のうちに三度《みたび》来《き》ぬ
我の書きしは四度《よたび》にかあらむ
手套を脱ぐ時
手套《てぶくろ》を脱《ぬ》ぐ手ふと休《や》む
何やらむ
こころかすめし思ひ出のあり
いつしかに
情《じやう》をいつはること知りぬ
髭《ひげ》を立てしもその頃なりけむ
朝の湯の
湯槽《ゆぶね》のふちにうなじ載《の》せ
ゆるく息《いき》する物思ひかな
夏|来《く》れば
うがひ薬の
病《やまひ》ある歯に沁《し》む朝のうれしかりけり
つくづくと手をながめつつ
おもひ出《い》でぬ
キスが上手《じやうず》の女なりしが
さびしきは
色にしたしまぬ目のゆゑと
赤き花など買はせけるかな
新しき本を買ひ来て読む夜半《よは》の
そのたのしさも
長くわすれぬ
旅《たび》七日《なのか》
かへり来《き》ぬれば
わが窓の赤きインクの染《し》みもなつかし
古文書《こもんじよ》のなかに見いでし
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