つ》りたる
山間《やまあひ》の町のともしびの色

雨つよく降る夜の汽車の
たえまなく雫《しづく》流るる
窓硝子《まどガラス》かな

真夜中の
倶知安駅《くちあんえき》に下《お》りゆきし
女の鬢《びん》の古き痍《きず》あと

札幌《さつぽろ》に
かの秋われの持てゆきし
しかして今も持てるかなしみ

アカシヤの街※[#「榎」の「夏」に代えて「越」、第3水準1−86−11]《なみき》にポプラに
秋の風
吹くがかなしと日記《にき》に残れり

しんとして幅広き街《まち》の
秋の夜の
玉蜀黍《たうもろこし》の焼くるにほひよ

わが宿の姉と妹《いもと》のいさかひに
初夜《しよや》過ぎゆきし
札幌の雨

石狩《いしかり》の美国《びくに》といへる停車場の
柵《さく》に乾《ほ》してありし
赤き布片《きれ》かな

かなしきは小樽《をたる》の町よ
歌ふことなき人人の
声の荒さよ

泣くがごと首ふるはせて
手の相《さう》を見せよといひし
易者《えきしや》もありき

いささかの銭《ぜに》借《か》りてゆきし
わが友の
後姿《うしろすがた》の肩《かた》の雪かな

世わたりの拙《つたな》きことを
ひそかにも
誇《ほこ》
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