りとしたる我にやはあらぬ
汝《な》が痩《や》せしからだはすべて
謀叛気《むほんぎ》のかたまりなりと
いはれてしこと
かの年のかの新聞の
初雪の記事を書きしは
我なりしかな
椅子《いす》をもて我を撃《う》たむと身構《みがま》へし
かの友の酔《ゑ》ひも
今は醒《さ》めつらむ
負けたるも我にてありき
あらそひの因《もと》も我なりしと
今は思へり
殴《なぐ》らむといふに
殴れとつめよせし
昔の我のいとほしきかな
汝《なれ》三度《みたび》
この咽喉《のど》に剣《けん》を擬《ぎ》したりと
彼《かれ》告別《こくべつ》の辞《じ》に言へりけり
あらそひて
いたく憎《にく》みて別れたる
友をなつかしく思ふ日も来《き》ぬ
あはれかの眉《まゆ》の秀《ひい》でし少年よ
弟と呼べば
はつかに笑《ゑ》みしが
わが妻に着物|縫《ぬ》はせし友ありし
冬早く来《く》る
植民地かな
平手《ひらて》もて
吹雪《ふぶき》にぬれし顔を拭《ふ》く
友共産を主義とせりけり
酒のめば鬼《おに》のごとくに青かりし
大いなる顔よ
かなしき顔よ
樺太《からふと》に入《い》りて
新しき宗教を創《はじ》めむといふ
友なり
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