神《はんしん》の人そが中に火や守りけむ
はてもなく砂うちつづく
戈壁《ゴビ》の野に住みたまふ神は
秋の神かも
あめつちに
わが悲しみと月光《げつくわう》と
あまねき秋の夜《よ》となれりけり
うらがなしき
夜《よる》の物の音《ね》洩《も》れ来《く》るを
拾《ひろ》ふがごとくさまよひ行《ゆ》きぬ
旅の子の
ふるさとに来《き》て眠るがに
げに静かにも冬の来《き》しかな
忘れがたき人人
一
潮《しほ》かをる北の浜辺《はまべ》の
砂山のかの浜薔薇《はまなす》よ
今年も咲けるや
たのみつる年の若さを数《かぞ》へみて
指を見つめて
旅がいやになりき
三度《みたび》ほど
汽車の窓よりながめたる町の名なども
したしかりけり
函館《はこだて》の床屋《とこや》の弟子《でし》を
おもひ出《い》でぬ
耳|剃《そ》らせるがこころよかりし
わがあとを追ひ来《き》て
知れる人もなき
辺土《へんど》に住みし母と妻かな
船に酔《ゑ》ひてやさしくなれる
いもうとの眼《め》見ゆ
津軽《つがる》の海を思へば
目を閉《と》ぢて
傷心《しやうしん》の句を誦《ず》してゐし
友の手紙のおどけ悲しも
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