ろこびをもて水の音|聴《き》く
秋の夜の
鋼鉄《はがね》の色の大空に
火を噴《は》く山もあれなど思ふ
岩手山《いはてやま》
秋はふもとの三方《さんぱう》の
野に満つる虫を何《なに》と聴くらむ
父のごと秋はいかめし
母のごと秋はなつかし
家《いへ》持たぬ児《こ》に
秋|来《く》れば
恋《こ》ふる心のいとまなさよ
夜《よ》もい寝《ね》がてに雁《かり》多く聴く
長月《ながつき》も半《なか》ばになりぬ
いつまでか
かくも幼く打出《うちい》でずあらむ
思ふてふこと言はぬ人の
おくり来《き》し
忘れな草《ぐさ》もいちじろかりし
秋の雨に逆反《さかぞ》りやすき弓《ゆみ》のごと
このごろ
君のしたしまぬかな
松の風|夜昼《よひる》ひびきぬ
人|訪《と》はぬ山の祠《ほこら》の
石馬《いしうま》の耳に
ほのかなる朽木《くちき》の香《かを》り
そがなかの蕈《たけ》の香りに
秋やや深し
時雨《しぐれ》降るごとき音して
木伝《こづた》ひぬ
人によく似し森の猿《さる》ども
森の奥
遠きひびきす
木《き》のうろに臼《うす》ひく侏儒《しゆじゆ》の国にかも来《き》し
世のはじめ
まづ森ありて
半
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