雨さらさら落ちて
前栽《せんざい》の
萩《はぎ》のすこしく乱《みだ》れたるかな
秋の空|廓寥《くわくれう》として影もなし
あまりにさびし
烏《からす》など飛べ
雨後《うご》の月
ほどよく濡《ぬ》れし屋根瓦《やねがはら》の
そのところどころ光るかなしさ
われ饑《う》ゑてある日に
細き尾を掉《ふ》りて
饑ゑて我を見る犬の面《つら》よし
いつしかに
泣くといふこと忘れたる
我泣かしむる人のあらじか
汪然《わうぜん》として
ああ酒のかなしみぞ我に来《きた》れる
立ちて舞《ま》ひなむ
※[#「蚊」の「文」に代えて「車」、第3水準1−91−55]《いとど》鳴《な》く
そのかたはらの石に踞《きよ》し
泣き笑ひしてひとり物言ふ
力なく病《や》みし頃《ころ》より
口すこし開《あ》きて眠《ねむ》るが
癖《くせ》となりにき
人ひとり得《う》るに過ぎざる事をもて
大願《たいぐわん》とせし
若きあやまち
物|怨《ゑ》ずる
そのやはらかき上目《うはめ》をば
愛《め》づとことさらつれなくせむや
かくばかり熱《あつ》き涙は
初恋の日にもありきと
泣く日またなし
長く長く忘れし友に
会ふごとき
よ
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