あと見えずかも

秋の声まづいち早く耳に入《い》る
かかる性《さが》持つ
かなしむべかり

目になれし山にはあれど
秋|来《く》れば
神や住まむとかしこみて見る

わが為《な》さむこと世に尽《つ》きて
長き日を
かくしもあはれ物を思ふか

さららさらと雨落ち来《きた》り
庭の面《も》の濡《ぬ》れゆくを見て
涙わすれぬ

ふるさとの寺の御廊《みらう》に
踏《ふ》みにける
小櫛《をぐし》の蝶《てふ》を夢にみしかな

こころみに
いとけなき日の我となり
物言ひてみむ人あれと思ふ

はたはたと黍《きび》の葉鳴れる
ふるさとの軒端《のきば》なつかし
秋風吹けば

摩《す》れあへる肩のひまより
はつかにも見きといふさへ
日記《にき》に残れり

風流男《みやびを》は今も昔も
泡雪《あわゆき》の
玉手《たまで》さし捲《ま》く夜《よ》にし老《お》ゆらし

かりそめに忘れても見まし
石だたみ
春|生《お》ふる草に埋《うも》るるがごと

その昔|揺籃《ゆりかご》に寝て
あまたたび夢にみし人か
切《せち》になつかし

神無月《かみなづき》
岩手《いはて》の山の
初雪の眉《まゆ》にせまりし朝を思ひぬ

ひでり
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