り
目さまして猶《なほ》起《お》き出《い》でぬ児の癖《くせ》は
かなしき癖ぞ
母よ咎《とが》むな
ひと塊《くれ》の土に涎《よだれ》し
泣く母の肖顔《にがほ》つくりぬ
かなしくもあるか
燈影《ほかげ》なき室《しつ》に我あり
父と母
壁のなかより杖《つゑ》つきて出《い》づ
たはむれに母を背負《せお》ひて
そのあまり軽《かろ》きに泣きて
三歩あゆまず
飄然《へうぜん》と家を出《い》でては
飄然と帰りし癖よ
友はわらへど
ふるさとの父の咳《せき》する度《たび》に斯《か》く
咳の出《い》づるや
病《や》めばはかなし
わが泣くを少女等《をとめら》きかば
病犬《やまいぬ》の
月に吠《ほ》ゆるに似たりといふらむ
何処《いづく》やらむかすかに虫のなくごとき
こころ細《ぼそ》さを
今日《けふ》もおぼゆる
いと暗き
穴《あな》に心を吸《す》はれゆくごとく思ひて
つかれて眠る
こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂《しと》げて死なむと思ふ
こみ合《あ》へる電車の隅《すみ》に
ちぢこまる
ゆふべゆふべの我のいとしさ
浅草《あさくさ》の夜《よ》のにぎはひに
まぎれ入《い》り
まぎれ出
前へ
次へ
全48ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング