ちか》きをたづねて仮にわかてるのみ。「秋風のこころよさに」は明治四十一年秋の紀念なり。
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我を愛する歌
東海《とうかい》の小島《こじま》の磯《いそ》の白砂《しらすな》に
われ泣《な》きぬれて
蟹《かに》とたはむる
頬《ほ》につたふ
なみだのごはず
一握《いちあく》の砂を示《しめ》しし人を忘れず
大海《だいかい》にむかひて一人《ひとり》
七八日《ななやうか》
泣きなむとすと家を出《い》でにき
いたく錆《さ》びしピストル出《い》でぬ
砂山《すなやま》の
砂を指もて掘《ほ》りてありしに
ひと夜《よ》さに嵐《あらし》来《きた》りて築《きづ》きたる
この砂山は
何《なに》の墓《はか》ぞも
砂山の砂に腹這《はらば》ひ
初恋の
いたみを遠くおもひ出《い》づる日
砂山の裾《すそ》によこたはる流木《りうぼく》に
あたり見まはし
物《もの》言《い》ひてみる
いのちなき砂のかなしさよ
さらさらと
握《にぎ》れば指のあひだより落つ
しっとりと
なみだを吸《す》へる砂の玉
なみだは重きものにしあるかな
大《だい》という字を百あまり
砂に書き
死ぬことをやめて帰り来《きた》れ
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