ゆゑにや秋が身に沁《し》む
わが抱《いだ》く思想はすべて
金《かね》なきに因《いん》するごとし
秋の風吹く
くだらない小説を書きてよろこべる
男|憐《あは》れなり
初秋《はつあき》の風
秋の風
今日《けふ》よりは彼《か》のふやけたる男に
口を利《き》かじと思ふ
はても見えぬ
真直《ますぐ》の街をあゆむごとき
こころを今日は持ちえたるかな
何事も思ふことなく
いそがしく
暮らせし一日《ひとひ》を忘れじと思ふ
何事も金金《かねかね》とわらひ
すこし経《へ》て
またも俄《には》かに不平つのり来《く》
誰《た》そ我《われ》に
ピストルにても撃《う》てよかし
伊藤のごとく死にて見せなむ
やとばかり
桂《かつら》首相に手とられし夢みて覚《さ》めぬ
秋の夜の二時
煙
一
病《やまひ》のごと
思郷《しきやう》のこころ湧《わ》く日なり
目にあをぞらの煙《けむり》かなしも
己《おの》が名をほのかに呼びて
涙せし
十四《じふし》の春にかへる術《すべ》なし
青空に消えゆく煙
さびしくも消えゆく煙
われにし似るか
かの旅の汽車の車掌《しやしやう》が
ゆくりなくも
我が中学の友
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