家《いへ》をおもへば
こころ冷《つめ》たし

人みなが家《いへ》を持つてふかなしみよ
墓に入《い》るごとく
かへりて眠る

何かひとつ不思議を示し
人みなのおどろくひまに
消えむと思ふ

人といふ人のこころに
一人づつ囚人《しうじん》がゐて
うめくかなしさ

叱《しか》られて
わっと泣き出《だ》す子供心
その心にもなりてみたきかな

盗むてふことさへ悪《あ》しと思ひえぬ
心はかなし
かくれ家《が》もなし

放《はな》たれし女のごときかなしみを
よわき男の
感《かん》ずる日なり

庭石《にはいし》に
はたと時計をなげうてる
昔のわれの怒《いか》りいとしも

顔あかめ怒《いか》りしことが
あくる日は
さほどにもなきをさびしがるかな

いらだてる心よ汝《なれ》はかなしかり
いざいざ
すこし※[#「呎」の「尺」に代えて「去」、第3水準1−14−91]呻《あくび》などせむ

女あり
わがいひつけに背《そむ》かじと心を砕《くだ》く
見ればかなしも

ふがひなき
わが日《ひ》の本《もと》の女等《をんなら》を
秋雨《あきさめ》の夜《よ》にののしりしかな

男とうまれ男と交《まじ》り
負けてをり
かるが
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