では、床の間に懸つた古い禅僧の法語の軸物、あられ釜、古渡《こわた》りの茶入《ちやいれ》、楽茶※[#「怨」の「心」に代えて「皿」、第3水準1−88−72]《らくぢやわん》、茶杓、――といつたやうな道具が、まるで魔法使の家の小さな動物たちが、主人の老女の持つ銀色の指揮杖の動くがままに跳ねたり躍つたりするやうに、それぞれの用に役立ちながら、みんな一緒になつて茶室になくてはならない、大切な雰囲気をそこに造り上げようとする。大切な雰囲気とはいふまでもなく、閑寂と侘とのそれである。
むかし、小堀孤蓬庵が愛玩したといふ古瀬戸《こせと》の茶入「伊予簾《いよすだれ》」を、その子の権十郎が見て、
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「その形、たとへば編笠といふものに似て、物ふりてわびし。それ故に古歌をもつて、
あふことはまばらにあめる伊予簾
いよいよ我をわびさするかな
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我おろかなるながめにも、これをおもふに忽然《こつぜん》としてわびしき姿あり。また寂莫たり」
といつたのも、その茶入が見るから閑寂な侘しい気持を、煙のやうに人の心に吹き込まないではおかなかつたのを嘆賞したも
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