のなのだ。

 もしか茶室の雰囲気に少しでももの足りなく感じたら、そんな場合には何をおいても床の間の抛入《なげいれ》の侘助の花を見ることだ。自然がその内ぶところに秘めてゐる孤独感が、をりからの朝寒夜寒《あささむよさむ》に凝《こ》り固まつて咲いたらしい、この花の持味は、自然の使者として、その閑寂と侘心とを草庵にもたらすのに充分なものがあらう。

 私は暗くなつた室でこんなことを思つてゐた。椿の花は小さく灰色にうるんで、闇の中に浮き残つてゐた。



底本:「泣菫随筆」冨山房百科文庫、冨山房
   1993(平成5)年4月24日第1刷発行
底本の親本:「独楽園」創元社
   1934(昭和9)年
入力:本山智子
校正:林 幸雄
2001年7月6日公開
2006年1月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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