りました。生れつきの博奕好きで、小鳥が二羽立木にとまっているのを見ると、どっちが早く飛ぶだろうかと、すぐ賭を工夫するといった風な、好きな博奕のためにはどんな機会をでも発見する事の出来る男でした。.
 この男が蛙を飼っていました。丹精して仕込まれただけあって、蛙は飛ぶ事がひどく得意で、この男の指が一寸お尻をこづくと、ゴム鞠のように跳上って、機みがよかったら途中で二三度とんぼ返りまでして見せました。とりわけ上手なのは幅飛で、この道にかけたらどんな蛙にも負けないだけの技倆を持っていました。スマイリイはこの蛙のお蔭で少からぬ金儲けをしたので、いつもカナリヤ籠に入れて、持ち歩いていました。
 ある時、この都に見当らない男が、通りすがりにこの籠を見て、何を飼っているのだと訊くと、スマイリイは、
「鸚鵡とも、カナリヤとも思われようが、実は蛙が一匹さ。」と答えました。
 蛙を飼って何にするのだと不思議がると、スマイリイは「幅飛の名人さ、これに追付くような奴はこの辺には一匹だって見当らない。嘘だと思うなら賭をしよう。」と言います。旅の男が、「蛙さえあれば賭けてみたいのだが、あいにく蛙の持ち合せがないので
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