寂しい旅の半程で、駱駝は急に獅子と化つて、これまで主人として事《つか》へた大きな龍と鬪つた。龍の名は“Thou shalt”獅子のは“I will”といふのだ。兩個は從來龍の持つてゐた『物の價値』について、ひどい取つ組合ひをした。實際獅子にはまだ『價値』を創り出すだけの力量は無かつたが、やがてそれを創らうといふ『自由』を産むだけの力は十分あつた。とかくする間に獅子はまた小兒に生れ變つた。小兒は價値の出發點で、立派な肯定だ。新しい世界はここから始まるといふのだ。
久米の仙人は女の脛を見た刹那、ニイチエの言つた新しい獅子と化つてゐたのだ。そして自分を乾いた空へ引張りあげた龍と爭つて、また地面に落ちて來た。私は次の刹那に、仙人がも一度第三の變化を遂げたかどうか知らないが、その胸に羽ぐくまれた自由の思想は、やがて新しい價値の世界を發見せずにはおかないのだ。
元亨釋書のいふところによると、釋理滿とかいつた河内産れの坊主は、わざわざ性慾を絶たうとして、陰痿の藥を飮んださうだ。なんといふ氣の毒な事だ。人間はどんな場合にも無駄な空想に驅られて、生活の力を自分で殺ぎ取つたり、別々に働かせたりしてはな
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