久米の仙人
薄田泣菫

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鶲《ひたき》の

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「隔のつくり+羽」、第3水準1−90−34]
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 私がじめじめした雜木の下路を通りながら、久米寺の境内へ入つて來たのは、午後の四時頃であつた。
 善無畏が留錫中初めて建てたといふ、恰好のいい多寶塔をちらと振仰ぎながら、私は仙人堂へ急いだ。久米仙人の木像を見ようといふのだ。仙人は埃だらけの堂のなかで、相變らず婦人でも抱かうとするやうな、妙な手つきをして龕のなかに納まつてゐた。
 私は久米の仙人が好きだ。好きだといつて、何も交際ぶりが氣に入つたとか、酒の上の話が合つたとかいふのではない。不思議な仙術を得て、あちらこちらと空を駈けずりまはる途すがら、そこいらの河の縁で洗濯女の白い脛を見て、急に地面に落ちたといふ、あの言傳へが氣に入つたのだ。
 世の中の人は――わけて兩性の關係を口喧しく言ひながら、家庭では十人の子供を産まうといふ道徳家などは、
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