》来《きた》る時は祖を殺しても鳴らし、仏《ぶつ》来《きた》る時は仏を殺しても鳴らした。霜《しも》の朝《あした》、雪の夕《ゆうべ》、雨の日、風の夜を何べんとなく鳴らした鐘は今いずこへ行ったものやら、余が頭《こうべ》をあげて蔦《つた》に古《ふ》りたる櫓《やぐら》を見上げたときは寂然《せきぜん》としてすでに百年の響を収めている。
 また少し行くと右手に逆賊門《ぎゃくぞくもん》がある。門の上には聖《セント》タマス塔が聳《そび》えている。逆賊門とは名前からがすでに恐ろしい。古来から塔中に生きながら葬られたる幾千の罪人は皆舟からこの門まで護送されたのである。彼らが舟を捨ててひとたびこの門を通過するやいなや娑婆《しゃば》の太陽は再び彼らを照らさなかった。テームスは彼らにとっての三途《さんず》の川でこの門は冥府《よみ》に通ずる入口であった。彼らは涙の浪《なみ》に揺られてこの洞窟《どうくつ》のごとく薄暗きアーチの下まで漕《こ》ぎつけられる。口を開《あ》けて鰯《いわし》を吸う鯨《くじら》の待ち構えている所まで来るやいなやキーと軋《きし》る音と共に厚樫《あつがし》の扉は彼らと浮世の光りとを長《とこし》えに隔
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