と二十世紀を軽蔑《けいべつ》するように立っているのが倫敦塔である。汽車も走れ、電車も走れ、いやしくも歴史の有らん限りは我のみはかくてあるべしと云わぬばかりに立っている。その偉大なるには今さらのように驚かれた。この建築を俗に塔と称《とな》えているが塔と云うは単に名前のみで実は幾多《いくた》の櫓《やぐら》から成り立つ大きな地城《じしろ》である。並び聳《そび》ゆる櫓には丸きもの角張《かくば》りたるものいろいろの形状はあるが、いずれも陰気な灰色をして前世紀の紀念《きねん》を永劫《えいごう》に伝えんと誓えるごとく見える。九段《くだん》の遊就館《ゆうしゅうかん》を石で造って二三十並べてそうしてそれを虫眼鏡《むしめがね》で覗《のぞ》いたらあるいはこの「塔」に似たものは出来上りはしまいかと考えた。余はまだ眺《なが》めている。セピヤ色の水分をもって飽和《ほうわ》したる空気の中にぼんやり立って眺めている。二十世紀の倫敦がわが心の裏《うち》から次第に消え去ると同時に眼前の塔影が幻《まぼろし》のごとき過去の歴史を吾が脳裏《のうり》に描《えが》き出して来る。朝起きて啜《すす》る渋茶に立つ煙りの寝足《ねた》らぬ夢
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