な》えて大を思わしむ。すべての反語のうち自《みずか》ら知らずして後世に残す反語ほど猛烈なるはまたとあるまい。墓碣《ぼけつ》と云い、紀念碑といい、賞牌《しょうはい》と云い、綬賞《じゅしょう》と云いこれらが存在する限りは、空《むな》しき物質に、ありし世を偲《しの》ばしむるの具となるに過ぎない。われは去る、われを伝うるものは残ると思うは、去るわれを傷《いた》ましむる媒介物《ばいかいぶつ》の残る意にて、われその者の残る意にあらざるを忘れたる人の言葉と思う。未来の世まで反語を伝えて泡沫《ほうまつ》の身を嘲《あざけ》る人のなす事と思う。余は死ぬ時に辞世も作るまい。死んだ後《あと》は墓碑《ぼひ》も建ててもらうまい。肉は焼き骨は粉《こ》にして西風の強く吹く日大空に向って撒《ま》き散らしてもらおうなどといらざる取越苦労をする。
題辞の書体は固《もと》より一様でない。あるものは閑《ひま》に任せて叮嚀《ていねい》な楷書《かいしょ》を用い、あるものは心急ぎてか口惜《くや》し紛《まぎ》れかがりがりと壁を掻《か》いて擲《なぐ》り書《が》きに彫りつけてある。またあるものは自家の紋章を刻《きざ》み込んでその中に古雅
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