樫《あつがし》の心《しん》も透《とお》れと深く刻みつけたる葡萄《ぶどう》と、葡萄の蔓《つる》と葡萄の葉が手足の触《ふ》るる場所だけ光りを射返す。この寝台《ねだい》の端《はじ》に二人《ふたり》の小児《しょうに》が見えて来た。一人は十三四、一人は十歳《とお》くらいと思われる。幼なき方は床《とこ》に腰をかけて、寝台の柱に半《なか》ば身を倚《も》たせ、力なき両足をぶらりと下げている。右の肱《ひじ》を、傾けたる顔と共に前に出して年嵩《としかさ》なる人の肩に懸ける。年上なるは幼なき人の膝の上に金《きん》にて飾れる大きな書物を開《ひろ》げて、そのあけてある頁《ページ》の上に右の手を置く。象牙《ぞうげ》を揉《も》んで柔《やわら》かにしたるごとく美しい手である。二人とも烏《からす》の翼を欺《あざむ》くほどの黒き上衣《うわぎ》を着ているが色が極めて白いので一段と目立つ。髪の色、眼の色、さては眉根鼻付《まゆねはなつき》から衣装《いしょう》の末に至るまで両人《ふたり》共ほとんど同じように見えるのは兄弟だからであろう。
 兄が優しく清らかな声で膝の上なる書物を読む。
「我が眼の前に、わが死ぬべき折の様を想《おも
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