あるから表面は決して滑《なめらか》ではない。所々に蔦《つた》がからんでいる。高い所に窓が見える。建物の大きいせいか下から見るとはなはだ小さい。鉄の格子《こうし》がはまっているようだ。番兵が石像のごとく突立ちながら腹の中で情婦とふざけている傍《かたわ》らに、余は眉《まゆ》を攅《あつ》め手をかざしてこの高窓を見上げて佇《たた》ずむ。格子を洩《も》れて古代の色硝子《いろガラス》に微《かす》かなる日影がさし込んできらきらと反射する。やがて煙のごとき幕が開《あ》いて空想の舞台がありありと見える。窓の内側《うちがわ》は厚き戸帳《とばり》が垂れて昼もほの暗い。窓に対する壁は漆喰《しっくい》も塗らぬ丸裸《まるはだか》の石で隣りの室とは世界滅却《せかいめっきゃく》の日に至るまで動かぬ仕切《しき》りが設けられている。ただその真中《まんなか》の六畳ばかりの場所は冴《さ》えぬ色のタペストリで蔽《おお》われている。地《じ》は納戸色《なんどいろ》、模様は薄き黄《き》で、裸体の女神《めがみ》の像と、像の周囲に一面に染め抜いた唐草《からくさ》である。石壁《いしかべ》の横には、大きな寝台《ねだい》が横《よこた》わる。厚
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