んてい》から之《これ》を改めなければならないが、職業を択んで日常欠く可《べ》からざる必要な仕事をすれば、強《し》いて変人を改めずにやって行くことが出来る。此方《こちら》が変人でも是非やって貰わなければならない仕事さえして居れば、自然と人が頭を下げて頼みに来るに違いない。そうすれば飯の喰外《くいはぐ》れはないから安心だと云うのが、建築科を択んだ一つの理由。それと元来僕は美術的なことが好であるから、実用と共に建築を美術的にして見ようと思ったのが、もう一つの理由であった。僕は落第したのだから水野、正木などの連中は一つ先へ進んで行って了《しま》ったのであるが、僕の残った級《クラス》には松本亦太郎なども居って、それに文学士で死んだ米山と云う男が居った。之は非常な秀才で哲学科に居たが、大分懇意にして居たので僕の建築科に居るのを見て切《しき》りに忠告して呉《く》れた。僕は其頃ピラミッドでも建てる様な心算《つもり》で居たのであるが、米山は中々盛んなことを云うて、君は建築をやると云うが、今の日本の有様では君の思って居る様な美術的の建築をして後代に遺《のこ》すなどと云うことは迚《とて》も不可能な話だ、それ
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