よりも文学をやれ、文学ならば勉強次第で幾百年幾千年の後に伝える可《べ》き大作も出来るじゃないか。と米山はこう云うのである。僕の建築科を択んだのは自分一身の利害から打算したのであるが、米山の論は天下を標準として居るのだ。こう云われて見ると成程《なるほど》そうだと思われるので、又決心を為直《しなお》して、僕は文学をやることに定めたのであるが、国文や漢文なら別に研究する必要もない様な気がしたから、其処《そこ》で英文学を専攻することにした。其後は変化もなく今日迄やって来て居るが、やって見れば余り面白くもないので、此頃は又、商売替をしたいと思うけれど、今じゃもう仕方がない。初めは随分突飛なことを考えて居たもので、英文学を研究して英文で大文学を書こうなどと考えて居たんだったが‥‥‥。
底本:「筑摩全集類聚版 夏目漱石全集 10」筑摩書房
1972(昭和47)年1月10日第1刷発行
初出:「中学文芸」
1906(明治39)年9月15日
※底本は、本作品を「談話」の項におさめている。
入力:Nana ohbe
校正:米田進
2002年5月10日作成
2003年5月25日修正
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