落第
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)余程《よほど》小さかった

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)横|辺《あた》り
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 其頃東京には中学と云うものが一つしか無かった。学校の名もよくは覚えて居ないが、今の高等商業の横|辺《あた》りに在《あ》って、僕の入ったのは十二三の頃か知ら。何でも今の中学生などよりは余程《よほど》小さかった様な気がする。学校は正則と変則とに別れて居て、正則の方は一般の普通学をやり、変則の方では英語を重《おも》にやった。其頃変則の方には今度京都の文科大学の学長になった狩野だの、岡田良平なども居って、僕は正則の方に居たのだが、柳谷卯三郎、中川小十郎なども一緒だった。で大学予備門(今の高等学校)へ入るには変則の方だと英語を余計やって居たから容易に入れたけれど、正則の方では英語をやらなかったから卒業して後更に英語を勉強しなければ予備門へは入れなかったのである。面白くもないし、二三年で僕は此中学を止めて了《しま》って、三島中洲先生の二松学舎へ転じたのであるが、其時分|此処《ここ》に居て今知られて居る人は
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