今の生徒は非常に温順《おとな》しい。皆な悪戯許《いたずらばか》りして居たものでストーヴ攻《ぜめ》などと云って、教室の教師の傍にあるストーヴへ薪《まき》を一杯くべ、ストーブが真赤になると共に漢学の先生などの真面目《まじめ》な顔が熱いので矢張《やは》りストーヴの如く真赤になるのを見て、クスクス笑って喜んで居た。数学の先生がボールドに向って一生懸命説明して居ると、後から白墨《チョーク》を以って其背中へ怪しげな字や絵を描いたり、又授業の始まる前に悉《ことごと》く教室の窓を閉めて真暗な処に静まり返って居て、入って来る先生を驚かしたり、そんなこと許《ばか》り嬉しがって居た。予科の方は三級、二級、一級となって居て、最初の三級は平均点の六十五点も貰《もら》ってやっとこさ通るには通ったが、矢張り怠《なま》けて居るから何にも出来ない。恰度《ちょうど》僕が二級の時に工部大学と外国語学校が予備門へ合併したので、学校は非常にゴタゴタして随分大騒ぎだった。それがだんだん進歩して現今の高等学校になったのであるが、僕は其時腹膜炎をやって遂々《とうとう》二級の学年試験を受けることが出来なかった。追試験を願ったけれど、合
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