け》遅れたのである。
 何とか彼《か》んとかして予備門へ入るには入ったが、惰《なま》けて居るのは甚《はなは》だ好きで少しも勉強なんかしなかった。水野錬太郎、今美術学校の校長をして居る正木直彦、芳賀矢一なども同じ級《クラス》だったが、是等《これら》は皆な勉強家で、自《おのずか》ら僕等の怠《なま》け者の仲間とは違って居て、其間に懸隔《けんかく》があったから、更に近づいて交際する様なこともなく全然《まるで》離れて居ったので、彼方《むこう》でも僕等の様な怠け者の連中は駄目な奴等だと軽蔑《けいべつ》して居たろうと思うが、此方《こちら》でも亦《また》試験の点|許《ばか》り取りたがって居る様な連中は共に談ずるに足らずと観じて、僕等は唯遊んで居るのを豪《えら》いことの如く思って怠けて居たものである。予備門は五年で、其中に予科が三年本科が二年となって居た。予科では中学へ毛の生えた様なことをするので、数学なども随分|沢山《たくさん》あり、生理学だの動物植物鉱物など皆な英語の本でやったものである。だから読む方の力は今の人達より進んで居た様に思われるが、然し生徒の気風に至っては実に乱暴なもので、それから見ると
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