対して払う租税である。
「大学を御卒業になった方《ほう》の……」とまで云ったが、ことによると、おやじも大学を卒業しているかも知れんと心づいたから
「あの文学をおやりになる」と訂正した。下女は何とも云わずに御辞儀《おじぎ》をして立って行く。白足袋《しろたび》の裏だけが目立ってよごれて見える。道也先生の頭の上には丸く鉄を鋳抜《いぬ》いた、かな灯籠《どうろう》がぶら下がっている。波に千鳥をすかして、すかした所に紙が張ってある。このなかへ、どうしたら灯《ひ》がつけられるのかと、先生は仰向《あおむ》いて長い鎖《くさ》りを眺《なが》めながら考えた。
 下女がまた出てくる。どうぞこちらへと云う。道也先生は親指の凹《くぼ》んで、前緒《まえお》のゆるんだ下駄を立派な沓脱《くつぬぎ》へ残して、ひょろ長い糸瓜《へちま》のようなからだを下女の後ろから運んで行く。
 応接間は西洋式に出来ている。丸い卓《テーブル》には、薔薇《ばら》の花を模様に崩《くず》した五六輪を、淡い色で織り出したテーブル掛《かけ》を、雑作《ぞうさ》もなく引き被《かぶ》せて、末は同じ色合の絨毯《じゅうたん》と、続《つ》づくがごとく、切れたるが
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