らず、争って奴隷たらんとするものに何らの理想が脳裏《のうり》に醗酵《はっこう》し得る道理があろう。
「諸君。理想は諸君の内部から湧《わ》き出なければならぬ。諸君の学問見識が諸君の血となり肉となりついに諸君の魂となった時に諸君の理想は出来上るのである。付焼刃《つけやきば》は何にもならない」
道也先生はひやかされるなら、ひやかして見ろと云わぬばかりに片手の拳骨《げんこつ》をテーブルの上に乗せて、立っている。汚ない黒木綿《くろもめん》の羽織に、べんべらの袴《はかま》は最前《さいぜん》ほどに目立たぬ。風の音がごうと鳴る。
「理想のあるものは歩くべき道を知っている。大なる理想のあるものは大なる道をあるく。迷子《まいご》とは違う。どうあってもこの道をあるかねばやまぬ。迷いたくても迷えんのである。魂がこちらこちらと教えるからである。
「諸君のうちには、どこまで歩くつもりだと聞くものがあるかも知れぬ。知れた事である。行ける所まで行くのが人生である。誰しも自分の寿命を知ってるものはない。自分に知れない寿命は他人にはなおさらわからない。医者を家業にする専門家でも人間の寿命を勘定する訳には行かぬ。自分が何
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