んです」
「なに得な事があるものか」
「あとが困るかも知れないと申すのです」
「妙な事を云うね御前は。――演説をしちゃいけないと誰か云ったのかね」
「誰がそんな事を云うものですか。――云いやしませんが、御兄《おあにい》さんからこうやって、急用だって、御使が来ているんですから行って上げなくっては義理がわるいじゃありませんか」
「それじゃ演説をやめなくっちゃならない」
「急に差支《さしつかえ》が出来たって断わったらいいでしょう」
「今さらそんな不義理が出来るものか」
「では御兄さんの方へは不義理をなすっても、いいとおっしゃるんですか」
「いいとは云わない。しかし演説会の方は前からの約束で――それに今日の演説はただの演説ではない。人を救うための演説だよ」
「人を救うって、誰を救うのです」
「社のもので、この間の電車事件を煽動《せんどう》したと云う嫌疑《けんぎ》で引っ張られたものがある。――ところがその家族が非常な惨状に陥《おちい》って見るに忍びないから、演説会をしてその収入をそちらへ廻してやる計画なんだよ」
「そんな人の家族を救うのは結構な事に相違ないでしょうが、社会主義だなんて間違えられる
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