返事はわずか五六行である。宛名《あてな》をかいて、「これを」と出す。細君は下女を呼んで渡してやる。自分は動かない。
「何の御用なんですか」
「何の用かわからない。ただ、用があるから、すぐ来てくれとかいてある」
「いらっしゃるでしょう」
「おれは行かれない。なんならお前行って見てくれ」
「私が? 私は駄目ですわ」
「なぜ」
「だって女ですもの」
「女でも行かないよりいいだろう」
「だって。あなたに来いと書いてあるんでしょう」
「おれは行かれないもの」
「どうして?」
「これから出掛けなくっちゃならん」
「雑誌の方なら、一日ぐらい御休みになってもいいでしょう」
「編輯《へんしゅう》ならいいが、今日は演説をやらなくっちゃならん」
「演説を? あなたがですか?」
「そうよ、おれがやるのさ。そんなに驚ろく事はなかろう」
「こんなに風が吹くのに、よしになさればいいのに」
「ハハハハ風が吹いてやめるような演説なら始めからやりゃしない」
「ですけれども滅多《めった》な事はなさらない方がよござんすよ」
「滅多な事とは。何がさ」
「いいえね。あんまり演説なんかなさらない方が、あなたの得《とく》だと云う
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