せったって、頑固《がんこ》だから、よす気遣《きづかい》はない。やっぱり欺《だま》すより仕方がないでしょう」
「どうして欺したらいいでしょう」
「そうさ。あした時刻にわたしが急用で逢《あ》いたいからって使をよこして見ましょうか」
「そうでござんすね。それで、あなたの方へ参るようだと宜《よろ》しゅうございますが……」
「聞かないかも知れませんね。聞かなければそれまでさ」
初冬《はつふゆ》の日はもう暗くなりかけた。道也先生は風のなかを帰ってくる。
十一
今日もまた風が吹く。汁気《しるけ》のあるものをことごとく乾鮭《からさけ》にするつもりで吹く。
「御兄《おあにい》さんの所から御使です」と細君が封書を出す。道也は坐ったまま、体《たい》をそらして受け取った。
「待ってるかい」
「ええ」
道也は封を切って手紙を読み下す。やがて、終りから巻き返して、再び状袋のなかへ収めた。何にも云わない。
「何か急用ででもござんすか」
道也は「うん」と云いながら、墨を磨《す》って、何かさらさらと返事を認《したた》めている。
「何の御用ですか」
「ええ? ちょっと待った。書いてしまうから」
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