しょう」
「厭《いや》なものに頼んだって仕方がないさ」
「あなたは、それだから困るのね。どうせ、あんな、豪《えら》い方《かた》になれば、すぐ、おいそれと書いて下さる事はないでしょうから……」
「あんな豪い方って――足立がかい」
「そりゃ、あなたも豪いでしょうさ――しかし向《むこう》はともかくも大学校の先生ですから頭を下げたって損はないでしょう」
「そうか、それじゃおおせに従って、もう一返《いっぺん》頼んで見ようよ。――時に何時かな。や、大変だ、ちょっと社まで行って、校正をしてこなければならない。袴《はかま》を出してくれ」
 道也先生は例のごとく茶の千筋《せんすじ》の嘉平治《かへいじ》を木枯《こがらし》にぺらつかすべく一着して飄然《ひょうぜん》と出て行った。居間の柱時計がぼんぼんと二時を打つ。
 思う事積んでは崩《くず》す炭火《すみび》かなと云う句があるが、細君は恐らく知るまい。細君は道也先生の丸火桶《まるひおけ》の前へ来て、火桶の中を、丸るく掻きならしている。丸い火桶だから丸く掻きならす。角な火桶なら角に掻きならすだろう。女は与えられたものを正しいものと考える。そのなかで差し当りのない
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