なったんでしょうか」
「そうさ、――しかし帰るなら、ちっとは帰る前に傍《そば》へ来て話でもしそうなものだ」
「なぜ皆さんのいらっしゃる所へ出ていらっしゃらないのでしょう」
「損だね、ああ云う人は。あれで一人じゃやっぱり不愉快なんだ。不愉快なら出てくればいいのになおなお引き込んでしまう。気の毒な男だ」
「せっかく愉快にしてあげようと思って、御招きするのにね」
「今日は格別色がわるかったようだ」
「きっと御病気ですよ」
「やっぱり一人坊《ひとりぼ》っちだから、色が悪いのだよ」
高柳君は往来をあるきながら、ぞっと悪寒《おかん》を催《もよお》した。
十
道也《どうや》先生長い顔を長くして煤竹《すすだけ》で囲った丸火桶《まるひおけ》を擁《よう》している。外を木枯《こがらし》が吹いて行く。
「あなた」と次の間《ま》から妻君が出てくる。紬《つむぎ》の羽織の襟《えり》が折れていない。
「何だ」とこっちを向く。机の前におりながら、終日《しゅうじつ》木枯《こがらし》に吹《ふ》き曝《さら》されたかのごとくに見える。
「本は売れたのですか」
「まだ売れないよ」
「もう一ヵ月も立てば百や
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