弐百の金は這入《はい》る都合だとおっしゃったじゃありませんか」
「うん言った。言ったには相違ないが、売れない」
「困るじゃござんせんか」
「困るよ。御前《おまえ》よりおれの方が困る。困るから今考えてるんだ」
「だって、あんなに骨を折って、三百枚も出来てるものを――」
「三百枚どころか四百三十五頁ある」
「それで、どうして売れないんでしょう」
「やっぱり不景気なんだろうよ」
「だろうよじゃ困りますわ。どうか出来ないでしょうか」
「南溟堂《なんめいどう》へ持って行った時には、有名な人の御序文があればと云うから、それから足立《あだち》なら大学教授だから、よかろうと思って、足立にたのんだのさ。本も借金と同じ事で保証人がないと駄目だぜ」
「借金は借りるんだから保証人もいるでしょうが――」と妻君頭のなかへ人指《ひとさし》ゆびを入れてぐいぐい掻《か》く。束髪《そくはつ》が揺れる。道也はその頭を見ている。
「近頃の本は借金同様だ。信用のないものは連帯責任でないと出版が出来ない」
「本当につまらないわね。あんなに夜遅くまでかかって」
「そんな事は本屋の知らん事だ」
「本屋は知らないでしょうさ。しかしあな
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