橋の向うで万歳と云う返事がある。これは迷子《まいご》の万歳である。高柳君はのそりと疳違《かんちがい》をした客のように天幕のうちに這入《はい》った。
 皿だけ高く差し上げて人と人の間を抜けて来たものがある。
「さあ、御上《おあが》んなさい。まだあるんだが人が込んでて容易に手が届かない」と云う。高柳君は自分にくれるにしては目の見当が少し違うと思ったら、後《うし》ろの方で「ありがとう」と云う涼しい声がした。十七八の桃色縮緬《ももいろちりめん》の紋付をきた令嬢が皿をもらったまま立っている。
 傍にいた紳士が、天幕の隅《すみ》から一脚の椅子《いす》を持って来て、
「さあこの上へ御乗せなさい」と令嬢の前に据《す》えた。高柳君は一間ばかり左へ進む。天幕の柱に倚《よ》りかかって洋服と和服が煙草《たばこ》をふかしている。
「葉巻はやめたのかい」
「うん、頭にわるいそうだから――しかしあれを呑《の》みつけると、何だね、紙巻はとうてい呑めないね。どんな好《い》い奴《やつ》でも駄目だ」
「そりゃ、価段《ねだん》だけだから――一本三十銭と三銭とは比較にならないからな」
「君は何を呑むのだい」
「これを一つやって
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