見たまえ」と洋服が鰐皮《わにがわ》の煙草入から太い紙巻を出す。
「なるほどエジプシアンか。これは百本五六円するだろう」
「安い割にはうまく呑めるよ」
「そうか――僕も紙巻でも始めようか。これなら日に二十本ずつにしても二十円ぐらいであがるからね」
二十円は高柳君の全収入である。この紳士は高柳君の全収入を煙《けむ》にするつもりである。
高柳君はまた左へ四尺ほど進んだ。二三人話をしている。
「この間ね、野添《のぞえ》が例の人造肥料会社を起すので……」と頭の禿《は》げた鼻の低い金歯を入れた男が云う。
「うん。ありゃ当ったね。旨《うま》くやったよ」と真四角な色の黒い、煙草入の金具のような顔が云う。
「君も賛成者のうちに名が見えたじゃないか」と胡麻塩頭《ごましおあたま》の最前《さいぜん》中野君を中途で強奪《ごうだつ》したおやじが云う。
「それさ」と今度は禿げの番である。「野添が、どうです少し持ってくれませんかと云うから、さようさ、わたしは今回はまあよしましょうと断わったのさ。ところが、まあ、そう云わずと、せめて五百株でも、実はもう貴所《あなた》の名前にしてあるんだからと云うのさ、面倒だからいい
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