調子よくすらりと腰から上が抜け出でている。ヴィーナスは浪《なみ》のなかから生れた。この女は裾模様のなかから生れている。
 日は明かに女の頸筋《くびすじ》に落ちて、角《かど》だたぬ咽喉《のど》の方はほの白き影となる。横から見るときその影が消えるがごとく薄くなって、判然《はっき》としたやさしき輪廓《りんかく》に終る。その上に紫《むらさき》のうずまくは一朶《いちだ》の暗き髪を束《つか》ねながらも額際《ひたいぎわ》に浮かせたのである。金台に深紅《しんく》の七宝《しっぽう》を鏤《ちりば》めたヌーボー式の簪《かんざし》が紫の影から顔だけ出している。
 愛は堅きものを忌《い》む。すべての硬性を溶化《ようか》せねばやまぬ。女の眼に耀《かがや》く光りは、光りそれ自《みず》からの溶《と》けた姿である。不可思議なる神境から双眸《そうぼう》の底に漂《ただよ》うて、視界に入る万有を恍惚《こうこつ》の境に逍遥《しょうよう》せしむる。迎えられたる賓客は陶然《とうぜん》として園内に入る。
「高柳さんはいらっしゃるでしょうか」と女が小さな声で聞く。
「え?」と男は耳を持ってくる。園内では楽隊が越後獅子《えちごじし》を奏
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