にだんだん濃《こ》くなる。脂のなかに黒い筋が立つ。箒《ほうき》で敲《たた》けば煎餅《せんべい》を折るような音がする。黒い筋は左右へ焼けひろがる。もう危うい。
風がくる。垣の隙《すき》から、椽《えん》の下から吹いてくる。危ういものは落ちる。しきりに落ちる。危ういと思う心さえなくなるほど梢《こずえ》を離れる。明らさまなる月がさすと枝の数が読まれるくらいあらわに骨が出る。
わずかに残る葉を虫が食う。渋色《しぶいろ》の濃いなかにぽつりと穴があく。隣りにもあく、その隣りにもぽつりぽつりとあく。一面が穴だらけになる。心細いと枯れた葉が云う。心細かろうと見ている人が云う。ところへ風が吹いて来る。葉はみんな飛んでしまう。
高柳君がふと眼を挙げた時、梧桐はすべてこれらの径路《けいろ》を通り越して、から坊主《ぼうず》になっていた。窓に近く斜《なな》めに張った枝の先にただ一枚の虫食葉《むしくいば》がかぶりついている。
「一人坊《ひとりぼ》っちだ」と高柳君は口のなかで云った。
高柳君は先月あたりから、妙な咳《せき》をする。始めは気にもしなかった。だんだん腹に答えのない咳が出る。咳だけではない。熱も出る
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