くさすると必ずこの梧桐を見る。手紙を書いてさえ行き詰まるときっとこの梧桐を見る。見るはずである。三坪ほどの荒庭《あれにわ》に見るべきものは一本の梧桐を除いてはほかに何にもない。
ことにこの間から、気分がわるくて、仕事をする元気がないので、あやしげな机に頬杖《ほおづえ》を突いては朝な夕なに梧桐《ごとう》を眺《なが》めくらして、うつらうつらとしていた。
一葉《いちよう》落ちてと云う句は古い。悲しき秋は必ず梧桐から手を下《くだ》す。ばっさりと垣にかかる袷《あわせ》の頃は、さまでに心を動かす縁《よすが》ともならぬと油断する翌朝《よくあさ》またばさりと落ちる。うそ寒いからと早く繰る雨戸の外にまたばさりと音がする。葉はようやく黄ばんで来る。
青いものがしだいに衰える裏から、浮き上がるのは薄く流した脂《やに》の色である。脂は夜ごとを寒く明けて、濃く変って行く。婆娑たる命は旦夕《たんせき》に逼《せま》る。
風が吹く。どこから来るか知らぬ風がすうと吹く。黄ばんだ梢《こずえ》は動《ゆる》ぐとも見えぬ先に一葉二葉《ひとはふたは》がはらはら落ちる。あとはようやく助かる。
脂は夜ごとの秋の霜《しも》
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