、われも病気と思う。しかし自分を一人坊っちの病気にしたものは世間である。自分を一人坊っちの病気にした世間は危篤《きとく》なる病人を眼前に控えて嘯《うそぶ》いている。世間は自分を病気にしたばかりでは満足せぬ。半死の病人を殺さねばやまぬ。高柳君は世間を呪《のろ》わざるを得ぬ。
道也先生から見た天地は人のためにする天地である。高柳君から見た天地は己れのためにする天地である。人のためにする天地であるから、世話をしてくれ手がなくても恨《うらみ》とは思わぬ。己れのためにする天地であるから、己れをかまってくれぬ世を残酷と思う。
世話をするために生れた人と、世話をされに生れた人とはこれほど違う。人を指導するものと、人にたよるものとはこれほど違う。同じく一人坊っちでありながらこれほど違う。高柳君にはこの違いがわからぬ。
垢染《あかじ》みた布団《ふとん》を冷《ひや》やかに敷いて、五分刈《ごぶが》りが七分ほどに延びた頭を薄ぎたない枕の上に横《よこた》えていた高柳君はふと眼を挙《あ》げて庭前《ていぜん》の梧桐《ごとう》を見た。高柳君は述作をして眼がつかれると必ずこの梧桐を見る。地理学教授法を訳して、くさ
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